しぼりたての地酒を
新幹線でその日のうちに食卓へ

Business. 05
コンシューマー商品事業

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高速で環境にやさしい新幹線を物流に活用

日本各地で醸造されている「地酒」。地域ごとの個性が出るため特産品として根強い人気を誇り、首都圏の飲食店でも提供されている。ところが、新型コロナウイルス感染症のまん延によって飲食店における酒類の提供に制限がかかったため、業界全体が極めて厳しい状況に陥った。
そのような中、東北・上越・北陸新幹線で地酒を輸送し、首都圏で販売するという取り組みが注目されている。新幹線で運ばれてきた地酒は駅内外の小売店や飲食店で扱われるほか、JR東日本商事が運営するECショップで事前予約を入れておけば、当日駅で受け取ることもできる。
この新たなビジネスモデルの長所を、営業本部に所属する彼はこう説明する。
「鉄道は速達性や定時性に優れているほか、エネルギー効率が良く有害な排気ガスがほとんど発生しないので、SDGsなどの取り組みを積極的に進めている企業さまにも好評です」。

当日朝に醸造した地酒が夕方には東京に

彼が扱う酒類の中に「今朝しぼり」というシリーズがある。これは朝に搾られた地酒を新幹線で首都圏に運び、当日中に販売するというものだ。
このプロジェクトがスタートしたのは2020年秋、ちょうど新酒の時季を迎えた頃だった。コロナ禍のため酒蔵を直接訪問することはできなかったが、電話やメールなどを駆使して各地の酒蔵に声をかけた。既存の販路が軒並み苦戦している状況もあって、多くの酒蔵の協力を得ることができた。
「まだまだ日本酒の知識は不足していますが、そのような私でも違いが感じられるくらいのフレッシュな味わいで、飲みやすいお酒です。消費者の皆さまにとってもそういったところが付加価値になっているようで、好評をいただいています」。
売り上げは好調で、回を重ねるごとに完売までの時間が短くなっているという。2年目となる2021年は酒蔵数、取扱量とも増加させる方向で、彼は日々調整を進めている。

新鮮な商品が地域活性化に結びつく

2021年9月には東京・銀座の商業施設「GINZA SIX」に出店したポップアップストアでは、新幹線で輸送したクラフトビールの販売を行った。ビールは石川県でその日の朝に搾られて缶詰めされたものだ。初めての試みであったので売れるかどうか半信半疑だったというが、早々に完売となった。その意義について、彼は力を込めて語る。
「お酒が新鮮さを売りにするという事例はこれまでほとんどありませんでしたが、これは輸送に日数が必要だったのも原因のひとつだと思います。ところが新幹線による輸送のおかげで、これまで現地でしか味わえなかったフレッシュなお酒を首都圏でも味わえるようになったのです」。
同じプロジェクトチームのメンバーは酒類以外にもさまざまな商材の開拓を進めており、朝採れの果物や賞味期限の短い菓子も取り扱い実績がある。新幹線だけでなく、在来線の特急を利用した事例もある。
「多くのお客さまに新鮮な飲食物を味わうことで地域の魅力を体感していただき、その地域を訪問するきっかけにつながるサービスにしていきたいと考えています」。

多様な事業で可能性を追求

新幹線を利用した緊急輸送サービスは国鉄時代から長く提供されてきたが、2021年10月に列車荷物輸送サービスと統合し「はこビュン」としてリニューアルされた。それに伴って新たなブランディングが図られ、彼らはさらなる可能性を求めて営業活動に取り組んでいる。
2020年入社の彼は、新型コロナウイルスの影響で地方出張も思うようにできなかった。状況はまだ予断を許さないが、コロナ禍が落ち着いたら積極的に地方へ出かけ、見聞を広めつつ新しい提案をしていきたいと考えている。その際にストロングポイントとなるのは、新幹線や特急列車の速達性とJR東日本グループの幅広い事業展開だ。
「食べ物や飲み物だけでなく、精密機械などB to B向け商材の輸送も考えられます。このような形で、将来的には当社が展開するさまざまな事業に生かしていきたいと思っています。横の連携によって、お客さまにさまざまな提案ができるようになるはずです」。